彼岸花

ある日、夫と愛人を別れさせてください、と依頼があった

夫は既に家を出て別居中、というか愛人宅(女性の実家)に転がり込んでいる

しかしこの夫婦、実はまだ入籍していない

よって夫婦ではない

だが問題は奥さん(話の流れ上、このまま表記)が妊娠してると言う事実だった、お腹はかなり大きい

だから一刻も早く別れさせたい

そして入籍したうえでちゃんと子供を産みたいと切なる願い

しかしこの夫、嫁からDVがあったから別れたいんだ、DVで入籍はおろか婚姻生活を継続するのは不可能だ~と主張している

今の女性とはDVで家から逃げた時に出会った、だから不謹慎ではない、と主張してる

夫の母親は、息子が言うのだから間違いない、と同調してる

また、別れる女をわざわざ入籍して戸籍を汚す必要はない、そのお腹の子供も息子の子供かどうか分からない、など耳を疑う悪魔のような発言あり

まさに、この親ありてこの子あり・・・の縮図であった

・・・・・その後、結果的に奥さんは1人で子供を生んだ

出産前の入籍と言う意味では工作は間にあわなかったが子供の父親は取り戻さなくてはならない!これが使命となった

我々は転がり込んでいる女性の両親や女性本人と極秘裏に面会し単刀直入に事情を説明したが、目の前で泣きながらDV被害を語る男の話は真実としか思えない、と受け入れられなかった

で、ポイントのDVを奥さんに聞いてみた

仕事だと嘘ついて深夜に女性と密会していたことを知り、怒ってティッシュの箱を投げつけた、罵声を浴びせた・・・・ただそれだけ

それを「わぁ~DVだ!暴力だ!」と1人で大騒ぎし、争点をズラして責任逃れするので、責任を問うキツイ発言をすれば「わぁ~DVだ~言葉の暴力だ~もう無理~」と家を出たらしい

正直、呆れた

こんな馬鹿馬鹿しい展開があるのだろうか?

こんな情けなく無責任な男が本当に存在するのだろうか?

というかこんな話を誇張したものをあの親や女性は信じたのであろうか?

呆れた後に悩んだ

だが信じるのだ、いや信じてしまうだろう要因を知った

この男、元子役で役者をやっていたのだ、それで演技力が巧みなのだ

見た目もベビーフェイスで優しい系

こんなのが目の前で迫真の演技で泣きながら訴えたら誰でも信じてしまうのであろう、と納得した

ちなみに溺愛してる母親は今でも30前の息子のことを、ウチの○○はTVに出てる誰よりもカッコイイ、俳優でなくアイドル事務所に入れておけばよかった・・・・などと恥ずかしげも無くパート先で語ってるほどだ

ほんとクソがつくくらいの親馬鹿、でもって馬鹿親子

で、更に調べて行くと、実はこの男、既にバツ2であったことが判明

手繰って行くと初婚も再婚も離婚の際は今回と同じようにDVの被害者手口を使って逃げた模様

パターンも同じく、浮気がバレて詰問や叱責されるタイミングで1人で大騒ぎを始める

母親は同じく息子に同調&同情

元嫁、元々嫁から「あれは病気、親子そろって異常・・・」という答えが返ってきた

奥さんもここまで知ると流石に呆れて決断となった、子供は1人で育てます・・・と力強く語った

必然的に私達の任務は終わることとなった、残念だ、これらのネタを持って女性とその両親と再度の面会を行う手はずだったのである

その翌日、女性の親から電話があった(我々は奥さんの友人となっている)

「やはりあの男は怪しい、だが娘は信じて疑わない、力を貸して欲しい」とのこと

しかし依頼者から終了を通達されてるし勝手に動く訳にはいかない

奥さんに連絡した「私が知った事実を全て教えてあげてください、あとはそれでその女性の判断です」とのこと

私達はご両親に伝えた、唖然とされた、お母さんは泣いていた

「昨夜叱責すると2人して出て行ったきり戻って来ない」
「あの男は悪魔です、娘は洗脳されています」
「携帯に電話しても出ない」

互いに仕事も無断欠勤してるとのこと(その後、そのまま辞めたらしい)
私達は掛ける言葉も無く立ち去った

季節も変わり、女性の乗っていた車が隣街の中古車に並んでいるのを見た
きっと金に困って売ったのであろう、それで男性を支えようとしてると窺えた
と同時に、困憊される女性の両親の顔が思い出された

・・・・・・それが丁度、彼岸花の咲いてた今頃であった

別れさせ屋をやってると色んな事案はある

だけどここまで後味の悪いというか怒りと悲しみの交錯した現場は他に例が無い

そこには幸福な者が誰ひとり居ないのであった

道端に咲く彼岸花を目にしてふっと思い出した思い出


梟 拝

関連記事