女性は還暦を少し過ぎた方だった
彼女はご主人の女性問題でお悩みだった
この30年主人には愛人が常に居て
毎日決まった時間に外出しその愛人女性と会っているとのことだった
実際、様子を伺った期間中も毎日密会されてたのを確認した
印象としては元気でマメなじいさん・・以外の何者でもなかった
で、彼女いわく
愛憎として愛人云々を言ってるのではなく
実は資産家であるが故の悩みという
それは、じいさんが変な遺書書いたり
書かされたら大変だから・・というものだった
ビルをいくつももってるので
愛人に一つでも二つでもやると言いかねないから・・らしい
じいさんは先祖代々の地主で
20歳後半からは働いたことが無い位のボンボン育ちの大名暮らし
だからいつも愛人から近寄ってきて不自由しない
でももうじいさんも私も歳が歳
自分が元気なうちにじいさんの目を覚ましとかないと
子や孫たちに大変な迷惑をかけるかも・・というのが彼女の説明だった
で、工作を行なったわけなんだけど
お金目当ての愛人だったのでお金で簡単に解決できた
また新しいのが表れたらまた相談しますね、と彼女は言い立ち去った
その後彼女の依頼で数回同じような仕事をこなした
夕方の決まった時間から愛人と過ごす生活も全く変っていなかった
(ほんとマメで元気なじいさんだ)
彼女はその都度、愛憎は一切無い、全ては子や孫のためと
感情高ぶることもなく理路整然と言われてたが、やはりどこか寂しそうな表情が記憶に残った
で最後のお仕事から数年
彼女はもう70をゆうに過ぎただろう
するとじいさんは80くらいか・・・などと思いながら
仕事で彼女らの住まいのあるビルの近くを通った
すると雑踏の中に見覚えのある女性の横顔が・・・
あっ彼女だ、直ぐに分かった
でも病気でもされたのか杖をつかれながらおぼつかない足取りだった
以前の凛とした姿はなく少しまるまった小さな背中が歳月を語っていた
次の瞬間じいさんがどこからとなく表れた
彼女を気遣い手をとり体に手を沿えゆっくり一緒に歩いて人ごみに消えた
次の日もそのまた次の日またまた次ぎの日も同じ場所で彼女らを目撃した
二人は段差で一緒に立ち止まり
時に人の群れをやり過ごしながら
ゆっくりゆっくり一緒に歩いてた、ちょっと痛々しくもあった
(散歩?リハビリ?って感じかな)
でも驚いたのはその時の彼女の笑顔は飛び切りだったこと
優しさと感謝の満面の笑みがそこにあった
じいさんの目も支える手も優しかった
彼女にとって最高の時がそこにあるのだと容易に想像できた
じいさんが30年以上愛人と過ごしてた時間帯が
今は彼女のためのものとなっていた
その様子を見てたら不覚にも目頭が熱くなったので
早足でその場をやり過ごし現場へと向かった
人生奥深し
梟 拝
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